ホーム  > ひろしまにピカがきた
第1章 昭和20年8月6日(月)  <   第2章 赤い噴水  >  第3章 黒い雨

第2章 赤い噴水

爆撃機エノラゲイ  どの位の時がたったのだろうか?
突然、瞼に強い光を感じ目がひらきました。
人間の五感にかんじるような強烈な光でした。
みんなおきて外を見ました。その時ドンというより、ドグワンといった方が良いような大音響がして、ひろしまの中央あたりから黒い柱がモクモクと立ちのぼり、みるみる天まで届くぐらいになっていきました。
「何じゃロウカイノウー?」
「軍の施設でも爆発事故おこしたンカイノウ?」
みんなそれぞれに口走りながら外を見たとき、3k位先の比治山の木がスペッとたおれると同時に、ほこりまじりの灰色がかかった壁が家々の瓦を吹き飛ばし建物をなぎたおし蓮の葉をペラペラと巻き上げながら、こちらに突進してくるのがはっきりと見えました。ほんの一瞬のできごとです。
「みんな逃げろ!・・・オ」
 一斉に入り口めがけて脱兎のごとく走りました。
人間の習性とは良くいったもので、そんな時でも脱いだ服・靴や鞄等はしっかりと小脇に抱えていました。
外に出て建物のかげに身をかがめると同時に息もできぬような熱い突風があたりをつきぬけて行きました。瓦がガラスが木片が空気をつんざいて飛んでいきました。
 耳もツーンとしてしばらくは何も聞こえませんでした。
「何が起こったんじゃローノオ?」
 それはアメリカの爆撃機B29(エノラゲイ号)から落とされた人類初めての原子爆弾だったのです。
「みんな大丈夫か!」声をかけあいました。
その時今度はさっきと逆のほうから突風が吹き抜けていきました。
「とにかく動くな!歩いたらガラスで怪我するケン靴をはけエヨ」誰かが叫びました。
いわれてあたりを見ると、突風が当った壁、柱そして地面にも鋭いガラスの破片がつき立っていました。
 僕は靴をはこうとしゃがみました。ふと見ると2m位い先に学友がぼうぜんと言う感じで立ちつくしていました。そしてその足元がボヤ―ッと赤くかすんでいました。
「OO君どうした。何をしとるんじゃ・・・早ヨウ服を着イヤ・・・」言いかけて僕はびっくりしました。OO君の足元がボヤ〜ッとしていたのは血煙りのせいでした。飛んできたガラスの破片が足の皮をスパッとそいでしまったのでしょう。血が20・30cm位、ふきあがっていたのです。
「OO君が足をやられトル! みんな手伝ってくれ!早ヨウせんと出血多量で死んでしまう!」
ゲートルをとり足首を力いっぱいしばりましたが血はとまりません。だれかがハンカチで膝の下をギュットしばりました。ようやく血は止まりました。人間の血圧のものすごさを知らされた大変なできごとでした。
 その時見た赤い噴水はいまだに鮮明に瞼に焼きついています。
 しかしそれは1945年8月6日午前8時15分大変なできごとのほんの小さな始まりでしかありませんでした。