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第9章 8月7日 ピカピカの革長靴

花  「おーい!父上がこられとる。急いで本校の玄関に行け!」
先生に呼ばれて玄関に行った。軍のサイドカーが止めてあり、横に父が立っていました。
「おー!生きとったか・・・怪我はないか?火傷はないか?良かった!良かった!元気でよかった!生きとったか・・・」
矢つぎ早に話しかけながら僕の両肩に手をかけ、何度も、何度もゆさぶりました。
その手から、小刻みに父の体の震えが伝わってきました。
「何でも新型爆弾じゃそうな?途中の町も大変じゃッたから、もう半分はあきらめとった。大勢の犠牲者には申し訳ないが、生きとってくれて本当に良かった!軍務で宇品港の陸軍基地に来たので、勝手なことじゃが矢も楯もたまらず、無理いって連れてきてもらった。時間がないのでもう帰る!皆さんのお役にたてよ!生き残ったのも何かの運命じゃ。助け合って頑張れ!」
 会った当初は、人間として父として、うれしさと優しさ、すべての感情をいっぱいに表していましたが、落ち着いてきて帰り際には、軍人にもどり、き然とした態度で敬礼すると、振り返りもせず帰っていきました。
 サイドカーに乗る込む時、ピカピカにみがかれた黒い革長靴のかがやきが妙に目に残りました。
アッという間の面会でした。
肩にかすかな、父の温もりを感じながら、畑の中道を遠ざかる砂じんを、何時までも見送りました。