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第5章 夢ならエエノニ!

地蔵  「寮の屋根が見えンド・・・?」
学友が叫びました。いわれてみ見ると、いつもは街路樹の間から見えていた二階建ての寮の屋根がありません。
「やっぱり爆風で倒れたンジャ」
途中の町々の様子から、予想していたことが当りました。急ぎました。
「学友が大勢下敷きになっとルンジャ!助け出そうにも倒れたものがじゃまして、どうにもならん!何か道具をさがしてくれ!」
 自力で倒れた建物から抜け出たもの、先にきていたロハ2班の学友たちが、素手で壊れた材木や、壁土を必死で取り除いていました。
とっさに寮の横にあった農具小屋を思い出し、走っていきました。
 小屋は傾いていましたが、どうにか中に入り道具をさがしました。
鎌・木槌・まさかり・のこぎりなどを見つけました。
「何でもエエ!役にたちそうなモン、みんなもっていこう!」
のこぎりが大活躍でした。
太い柱や梁を切るのは大変でしたが、皆が交代でかかりました。
ほとんどの学友は助け出されました。
火災が遠くだったことが、幸いでした。
不幸にも一人の学友は、部厚い出入り口の扉に下敷きとなり、助け出された時はもう死んでいました。
「誰かいるか!」「だれもおらんか!」
倒れた寮に向かって叫びました。
みんなで生存者をさがしました。返事はもうありませんでした。ホット一安心しました。
 空腹感がどっとおしよせてきました。朝から地獄のような経験をし、何も口にするものもなく、気がつくと午後2時ごろになっていました。ちょっと落ち着くと疲れがドット出て、材木の上に腰かけて、まじまじとあたりを見まわしました。建物も木も、高いものは何も見あたりませんでした。くすぶりつづけるうす煙をとおして、かなり遠くまで見通すことができました。
「なんジャッタカイノ?・・・」「よっポど大きい爆弾を落とされタンジャローテ!・・・」
あとはみんな無言であたりを見ていました。
「チョロ!チョロ!チョロ!チョロ」気がつくと風呂の蛇口から、水がこぼれていました。手で受けました。きれいな水でした。一気にのみました。次々とみんなも飲みました。
「ウメェ!・・・」
思わず叫んでいました。
 朝から、のまず、くわずの胃にしみわたりました。顔も洗いました、汗と、ほこりで汚れた首筋から黒い水が流れ、手拭もすぐ黒く汚れるほどでした。
避難してきた、ボロボロに傷つき火傷した人々がヨタヨタときて「みずください!・・・」「水ツカアサイ!・・・」次々と集まってきました。
 何もさえぎるものがないので、風呂場の蛇口が道から見えるのでしょう?
棒につかまり、ヨロ、ヨロとしながら水をのみ、蛇口の下にたおれこみ、そのまま死んでいく人もいました。衣服はほとんど焼け、火傷でふくらんだまぶたで、目もほとんどふさがりかけた子供達も来ました。
「母ちゃんは?」「父ちゃんは?」
「わかラン・・・」
水をのむと、倒れた材木の横にいき
「お兄ちゃん!ここならもお、火はコンジャロ・・・?」
そのまま力つきたのか、安心したのか、くずれるように、横になりました。
「死んだンカノオ?」「まさか!?・・・」
しばらくして、そばに確かめに行きました。一人の子どもが
「母チャン・・・」
ちいさくつぶやいていました。どんな夢を見ているのでしょう。口もとはほほえんでいるよでした。傷ついた子犬もよってきました。半身火傷でした。水をやりました。小さくしっぽをふっていましたが、体をこきざみに振るわせて、目を閉じました。
「かわいそうにノオ」
学友がつぶやきました。目をうるませていました。
 気がつくと、周りに大勢の人々が力尽き、たおれこみ、おりかさなるように死んでいました。煙といっしょに、ものすごい悪臭がただよってきます。
「ひどいなァ!地獄じゃケン・・・」
「ああ:夢ならエエノニ!」誰かがつぶやきました。
兵隊さんたちがやってきました。
「学生さんたち!元気そうじゃなァ:死体を焼くから手伝ってくれ!」
死体にのこっている衣服のきれはしをとり、手に巻きつけました。そうしないと、火傷と血でヌルヌルの死体をつかめないそうです。
兵隊さんに教えられました。
10人位づつの死体を2・3段につみあげ、まわりに木片を立てかけ、火をつけるのです。煙と人の焼けるにおいで、息もつまりそうでした。いくつも、いくつも死体の山ができました。学友は小声で
「夢じゃ・・・夢じゃ・・・ナンマンダ」
作業中ずっと、言いつづけていました。
「身元不明のまま、大勢の人が天国に行きました。子犬もいっしょにいきました。
ネコ、ツバメ、スズメもいっしょに行きました。
もくもくと頭上におおいかぶさるように立っているきのこ雲に上っていきました。
「ナンマンダ・・・ナンマンダ・・・」
みんな合掌しておくりました。