「原発をとめた裁判長」ご本人から「当日ご来場くださった方へ」というメッセージをいただきました。感激し、また内容に感動し、より多くの方に届けたいという事務局のお願いを快諾していただきましたので、このホームページに公開します。
このメッセージは、上映終了後、代読いたします。思いを強いものにしていただきたく、事前紹介いたします。
映画をご覧になった皆様へ
樋口英明
映画をご覧頂きありがとうございました。
映画の中で福島第一原発を遠くに臨む海岸のシーンが何度か登場しましたが、そこは「請戸うけどの浜」というところです。請戸の浜では津波によって多くの家が流され、消防団の方達は、3月11日の夜まで捜索を続けていました。その時、クラクションや物をたたく音から何人かの人が生存していることが分かりましたが、夜が明けるのを待って救出活動をすることになり一旦捜索を中止しました。ところが、翌3月12日午前5時ころに、放射線量が高くなったということで福島第一原発から10キロ圏内に避難命令が出されました。放射能の心配がなくなり、救助隊が請戸の浜に立ち入ることができたのは1か月後のことでした。原発事故で亡くなった人がいないというのは嘘です。
現在、政府の避難計画は、原発事故が起きた場合、原発から5キロメートル以内の住民はすぐに逃げ出し、5キロを超える地域の住民は5キロ以内の人が逃げ終わってから逃げ出すというものです。しかし、原発から5キロ圏内で震度7の地震が来たら、多くの古い家は倒れると共に、耐震性の低い原発もほぼ確実に大事故になります。倒れた家の中に閉じ込められた人、けがを負って動けなくなった人に放射能が襲いかかります。誰も助けに行けません。政府の避難計画は請戸の浜の悲劇がより大きな規模で再現されてしまうことを容認していることになるのです。たいへん恐ろしいことです。
脱原発運動の最も強力な敵は、原発回帰に舵を切った政府でも電力会社でもありません。脱原発の最も強力な敵は「先入観」です。「福島原発事故を経験しているのだから、それなりの避難計画が立てられているだろう」という先入観、「原子力規制委員会の審査に合格しているのだから、少なくとも福島原発事故後に再稼働した原発はそれなりの安全性を備えているだろう」との先入観、「政府が推進しているのだから、原発は必要なのだろう」という先入観、「原発は難しい問題だから、素人には分からない」という先入観です。
その中でも最も強力な敵は「原発は難しい問題だ」という先入観です。原発の問題は決して難しい問題ではありません。次の二つのことさえ理解してもらえればよいだけです。一つ目は、原発は事故の時も自然災害に遭った時も運転を止めるだけでは安全にはならず、人が管理し、電気と水で原子炉を冷やし続けなければ必ず事故になるということです。二つ目は停電や断水が起きて人が管理できなくなった場合の事故の被害は極めて甚大だということです。現に福島第一原発事故では停電しただけで、「東日本壊滅」の危機に陥りました。
しかし、「東日本壊滅の危機」にあったことを知ったとしても、多くの人は「事故があったとき被害が大きいものは事故発生確率を低くしているはずだから、原発も事故発生確率が低いはずだ」という強固な先入観を持ってしまっているのです。
この映画の目的はそのような先入観を捨ててもらうことです。原発は事故が発生すれば被害がとてつもなく大きく、それにもかかわらず耐震性が低いために事故発生確率も高いのです。原発は、私たちの常識が通用しない発電施設なのです。 原発はやめるしかないのです。我が国は映画で紹介された太陽光のほか、風力、水力、地熱をはじめ自然エネルギーに満ちあふれているのですから、原発をやめても大丈夫なのです。
福島原発事故を教訓にドイツは2023年4月15日全原発の停止を実現致しました。
2023年5月5日、石川県珠洲すず市で震度6強の地震がありました。震源は、能登半島の先端部で、まさに、2003年に凍結された珠洲原子力発電所の立地予定地付近でした。1980年代において脱原発派は極めて少数派でした。しかし、彼らの粘り強い運動によって、珠洲原子力発電所の建設は凍結されたのです。もし反対運動がなければ、福島原発事故に続く悲劇が繰り返されたかもしれないのです。声を上げることの大切さをあらためて実感しました。 福島原発事故を経験し、原発の本当の危険性を知った私たちの責任は極めて重いものがあります。私たちの後に続く人々のために、これ以上「負の遺産」を増やしてはならないと思います。
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