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第7章 きらきら星

地蔵  運動場のはずれにある、爆風でくずれかけた運動用具倉庫の中で、ウォンを食べて、すこし人心地ついた学友達と、寝場所をさがして、足さぐりで暗い校舎内に入りましたが、飛び散ったガラスや机など、どこでも安心して寝ころがれる場所はなく、外で寝ることにしました。
 運動場のはしにある、防空ごうの中に入りましたが、暑くてすぐに外に出て地面に寝ころがりました。
「ものすごい一日ジャッタノウ・・・」
「大勢死ンドッタが、今日のことは、一生忘れンジャローノオ・・・ひどい焼死体もいくつも見たケンド・・・可哀想な人たちも、ヨウケ見た・・・火傷だらけの子どもを抱きかかえて、『助けて!誰か助けてやってください!』」必死で叫びながら、ヨロヨロと逃げまどうウテカラ・・・そういう自分のほうが、もっとひどい火傷をしトルンジャ・・・ふだん考えたこともなかったケンど母親の愛は強いとつくづく思うタヨ・・・」
「やっぱり、自分より子どもが先なんじゃノオ」しみじみとした、学友の話を聞きながら空を見ていました。
 ただよって来るうすい煙のまくをとおして、星が光っていました。まわりに光るものがないせいか、すごくきれいにキラキラと、見えました。ふと、父母、兄姉のことを思い出しました。朝からの異様な状況の中、思い出すどころではありませんでしたが、今ごろは、父母はどんなに心配しているだろう?そう思うとかけ出していきたい思いでした。
「僕は元気でいきトルヨ!」
呉にいる母に、大竹の潜水学校にいるであろう父にむかって、心の中で叫びました。
 そして改めて「僕はいきトル!生きトル!」この地獄のような惨状の中、生きとルンジャ!何かすごい喜びのような、激しいものがこみ上げてきました。
 暗い夜空には、朝方、たちのぼった真っ黒な煙柱が、きのこのような先端を、やや斜めにかたむけて夜空にとけこむかのように立っていました。
その横のほうに、キラキラ、キラキラ星が無数に輝いていました。母の顔を思い浮かべながら、いつか深く深く眠り込んでいきました。
 地獄の一日が終わりました。